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9月:ブレス

 

 

 

 

暑さが和らぎ、次の季節への移り変わり時期となりました。
感覚とはおもしろいもので、
風一つ、光一つにしても人様々の感覚違いがあります。
心地よい風か、肌寒い風か・・・
温かい光か、物悲しい光か・・・
しかし風は、光は、そんなことは何も考えていません。
ただ吹く・・・
ただ光る・・・それだけです。

野に咲く一輪のお花を見て、
心強く感じるも、淋しげに見えるも、
こちらの心持ちによって変わります。
そう、今日と明日では違って見えたりもします。
野に咲く一輪のお花は何も変わっていないのに・・・。

そんなたわいもない事が頭を過ぎる・・・
それがこの時期の贅沢な時間なのだと感じます。
それをも感じるか、感じられないか。
私は前者でありたいと・・・深く、深く、深呼吸一つ。

そして、この深呼吸が次の演奏のブレスとなる。

 

 

歌劇「トスカ」より
~ 歌に生き、恋に生き ~

 

issi d’ arte, Vissi d’ amore
Vissi d’ arte, vissi d’ amore,
non feci mai male ad anima viva!
Con man furtiva
quante miserie conobbi, aiutai…
Sempre con fe’ sincera
la mia preghiera ai santi tabernacolo salì,
sempre con fe’ sincera
diedi, fiori agli altar.
Nell’ ora del dolore
perchè, perchè, Signore,
perchè me ne rimuneri così?
Diedi gioielli della Madonna al manto,
e diedi il canto agli astri, al ciel,
che ne ridean più belli.
Nell’ ora del dolor,
perchè, perchè, Signor,
perchè me ne rimuneri così?

 

Giacomo Puccini : Tosca, Act II ” Vissi d’ arte, Vissi d’ amore“ (Tosca )

 

 

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8月:夏に開くアルバム

 

 

 

 

夏の暑い日差しの中にふと風が通りますと、
心に何かが通る気がします。
その風が運んできたものはなんでしょうか。

私の頭の中には沖縄の歌が流れます。
芭蕉布、てぃんさぐぬ花、童神(わらびがみ)~天の子守唄~、
涙そうそう、花、島唄、三線(さんしん)の花・・・
沖縄の音階は「ラ抜き」と言われますが、独特な音階です。

ハイビスカスのお花が似合う暑さの中、
少々油っこいお料理と泡盛を歌いながら笑い楽しむ。
なぜか笑いが絶えないが、何か寂しさも感じる。
沖縄は明るいイメージがありながらも、沖縄の歌には物悲しさがある。

歌の歌詞には作詞者の背景がありますが、
自分の背景に置き換えてみてはいかがでしょう。
涙そうそう。
亡くなった方だけではなく、最近は会えていない人、古い友人・・・
身近にいる人との一昔前・・・
心の中にあるアルバムを広げてみる。
涙そうそうしながらも、微笑んでいる自分に気がつきます。

 

 

涙そうそう

作詞:森山良子
作曲:BIGIN

 

古いアルバムめくり
ありがとうってつぶやいた
いつもいつも胸の中
励ましてくれる人よ
晴れ渡る日も 雨の日も
浮かぶあの笑顔
想い出遠くあせても
おもかげ探して
よみがえる日は 涙そうそう

一番星に祈る
それが私のくせになり
夕暮れに見上げる空
心いっぱいあなた探す
悲しみにも 喜びにも
おもうあの笑顔
あなたの場所から私が
見えたら きっといつか
会えると信じ 生きてゆく

晴れ渡る日も 雨の日も
浮かぶあの笑顔
想い出遠くあせても
さみしくて 恋しくて
君への想い 涙そうそう
会いたくて 会いたくて
君への想い 涙そうそう

 

 

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7月:淡々と

 

 

 

 

クラシックのコンサートはこの時期はオフと言われ、肌寒くなる時期がメインシーズンです。
秋から冬はオシャレの時期、コンサートへ出掛ける装いも楽しみの一つとして考えられているのでしょう。

歌い手のこの時期はメインシーズンのためのお稽古が多くなります。
オペラの稽古は数ヶ月に渡りますので、暑い最中は稽古場!!!
また、声の調整や心身のメンテナンスとして海外の空気に触れに行く時期でもあります。
イタリアの太陽は熱いです!
照りつく太陽の中、ミネラルウォーターを片手に長い距離の石畳を歩き、
石造りの建物の中へ入るとひんやりとするあの感覚は何とも言えません。
額の汗を拭いながら、中から見る石畳の上にある影。
こうしたたわいも無い感覚がエネルギーになります。

日本は梅雨の頃となり、深い緑も雨で濡れてしっとりとしてます。
梅雨に濡れた緑の中に、ふと甘い香りが漂います。
そう、クチナシの香りです。
我が家の鉢植えのクチナシも満開、家中に甘い香りが漂います。
感情を込める事が音楽や歌ではなく、
淡々と歌うことの難しさを教えてくれた「くちなし」。
この曲を歌えるようになった時の喜びを思い出しました。
淡々と歌う、ということはけっして無表情ではありません。
満ち溢れる感情や音楽性を押し殺す表現、というのでしょうか。
感情を音楽に乗せて表現するよりも、
淡々と歌うことが私には合っているとも教えてくれた「くちなし」。
感謝の一曲です。

 

 

くちなし
~ 歌曲集『ひとりの対話』より ~

作詞:高野喜久雄
作曲:高田三郎

 

荒れていた庭 片隅に
亡き父が植えたくちなし
年ごとに かおり高く
花はふえ
今年は十九の実がついた

くちなしの木に
くちなしの花が咲き
実がついた
ただ それだけのことなのに
ふるえる
ふるえるわたしのこころ

「ごらん くちなしの実を ごらん
熟しても 口を開かぬ くちなしの実だ」
とある日の 父のことば
父の祈り

くちなしの実よ
くちなしの実のように
待ちこがれつつ
ひたすらに こがれ生きよ
と父はいう
今も どこかで父はいう

 

 

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6月:緑の雨

 

 

 

 

春を迎え笑顔になり、新緑の中に入りエネルギー充電。
そろそろ梅雨となりますので、夏の前の一息というところですね。
ふと窓から外を見ますと雨に濡れた木々・・・
皆さまは何を感じられますでしょうか。

歌には音楽と詞があり、どちらかだけでは「歌」は成立しません。
そしてどちらかが優っていては曲として何か物足りなさを感じます。
音楽の盛り上がりと詞の盛り上がりが常に一致しているとも限りません。
歌を歌うということは、簡単そうに見えて奥が深いのです。
・・・緑の雨を見ていて私はあらためて感じました。

 

 

作詞/作曲:中島みゆき

 

なぜ めぐり逢うのかを
私たちは なにも知らない
いつ めぐり逢うのかを
私たちは いつも知らない

どこにいたの 生きてきたの
遠い空の下 ふたつの物語

縦の糸はあなた 横の糸は私
織りなす布は いつか誰かを
暖めうるかもしれない

なぜ 生きてゆくのかを
迷った日の跡の ささくれ
夢追いかけ走って
ころんだ日の跡の ささくれ

こんな糸が なんになるの
心許なくて ふるえてた風の中

縦の糸はあなた 横の糸は私
織りなす布は いつか誰かの
傷をかばうかもしれない

縦の糸はあなた 横の糸は私
逢うべき糸に 出逢えることを
人は 仕合わせと呼びます

 

 

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5月:美しき新緑

 

 

 

 

今年は桜の満開を押し出すかのように新緑が勢いよくスタートしました。

厳しい冬の間、山々の木々は「無」となっています。
生命を感じない木々は恐ろしくも感じます。
しかしどうでしょう!
何十、何百、何千・・・葉を芽吹かせる木は水分を吸い上げているのでしょう、幹や枝が濃くなります。
各々が我先に!と芽吹き、見る見るうちに新緑の溢れる木々。
この新緑が深い緑になり、半年後には紅葉という木々の華を咲かせます。
これほどの生命力を目の前で表現してくれるものが他にあるでしょうか。

一つとして同じ「緑色」が無く、光までもが緑色に見えます。
一枚の葉の緑、その裏側はどのような緑でしょうか・・・
一つの美しさを完成させるには様々な美しさの集まりと感じます。
私の最も好きな時期、新緑。
溢れる新緑が私の感性に刺激を与えてくれます。
・・・感謝。

 

 

熱烈な願い
~ 3つのアリエッタ ~

 

Quando verrà quel dì
che riveder potrò
quel che l’amante cor tanto desia?

Quando verrà quel dì
che in sen t’accoglierò,
bella fiamma d’amor,anima mia?

 

Il fervido desiderio ~ Tre Ariette ~
Bellini

 

 

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4月:甘い春、ほろ苦い春

 

 

 

 

時が過ぎれば必ずやってくる春。
風が春のお花の甘い香りを運んでくれます。
梅、水仙、ミツマタ・・・
そして食する春は”ほろ苦さ”です。
春の先頭を切ってのフキノトウ!
今年もY氏がたくさんお届けくださいました。

欧米では別れと出会の春をお花が咲く華やかさで表現しますが、
ほろ苦さの春、という表現は日本ならではと思います。

やはり春ですね、歌を口ずさむことが多くなってきました。
これから桜が咲いてくる時期です。
桜に失恋を重ねるところが日本人ならではの表現でしょうか。
桜色の軽やかな美しさの中にもほろ苦さの漂う一曲です。

 

 

さくら横ちょう

作詞:加藤周一
作曲:中田喜直

 

春の宵 さくらが咲くと
花ばかり さくら横ちょう
想い出す 恋の昨日
君は もうここにいないと
ああ いつも 花の女王
ほほえんだ 夢のふるさと
春の宵 さくらが咲くと
花ばかり さくら横ちょう
会い見る時は なかろう
「その後どう」
「しばらくねえ」
と言ったってはじまらないと 心得て
花でも 見よう
春の宵 さくらが咲くと
花ばかり さくら横ちょう

 

 

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3月:大切な宝物

 

 


 

 

日光に移住して3年目を迎えました。
最初は生活環境が変わり戸惑うことが多くありました。
夏は雷が毎日!
冬は男体山からの”男体颪(なんたいおろし)”!
一年を通じてお水の冷たさ!

これまでの生活には無かった戸惑い、
そう、どれもが自然世界のものです。
大自然の空気と光は私を包み込んで、厳しさと温かさを教えてくれました。

どこへ出掛けても帰り道は男体山、女峰山に向かって帰ってきます。
山へ向かって帰る・・・なんと素敵なのでしょう。
私はここに住んでいることが幸せです。
あらためて、日光の大自然に感謝。
そして家族に大感謝。

 

 

いのちの歌

作詞:miyabi
作曲:村松崇継

 

生きてゆくことの意味 問いかけるそのたびに
胸をよぎる 愛しい人々のあたたかさ
この星の片隅で めぐり会えた奇跡は
どんな宝石よりも 大切な宝物
泣きたい日もある 絶望に嘆く日も
そんな時そばにいて 寄り添うあなたの影
二人で歌えば 懐かしくよみがえる
ふるさとの夕焼けの 優しいあのぬくもり

本当にだいじなものは 隠れて見えない
ささやかすぎる日々の中に かけがえない喜びがある

いつかは誰でも この星にさよならを
する時が来るけれど 命は継がれてゆく
生まれてきたこと 育ててもらえたこと
出会ったこと 笑ったこと
そのすべてにありがとう
この命にありがとう

 

 

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2月:恵風・一年の計は春にあり

 

 

 

 

2024年の節分です!
今年は”切り替えの年”とのこと。
真っ先に頭の中に浮かび、その後ずっとリピートしている歌があります。
ヴェルディのレクイエム”Liber scriptus”。
世界、日本、人々・・・
全てが裁きを受けて切り替わるということでしょうか。
ならばその日が来る前に、
自分自身の切り替えをしっかり考えようと思います。

切り替えるとは簡単なようで非常に難しい。
コインの表と裏のようにパッとはいきません。
他者を考えると簡単に思えますが、自分自身ではいかがでしょうか。
非常に難しい事と思います。

人は自分自身を愛し、認め、褒めることがなかなか出来ません。
しかし他者から褒められることで気付き、認め、
自分が自分自身を褒めることが出来た時、
心の器が更に大きくなるのではないでしょうか。

これまでの日本が作った日本人の美徳の一つに、
耐える、頑張るということがあります。
素晴らしい事とは思いますが、
真面目な日本人は少々ギスギス、トゲトゲしているように感じます。
なぜなら、耐える、頑張ることで終了になっているからではないでしょうか。
濡れたタオルはしっかり硬く絞ることが必要ですが、
広げて乾かさなければフンワリしたタオルにはなりません。
どんなに小さなことでも出来た時、乗り越えた時、
それに対して他者からの感謝や褒めを受け、
自分が自分自身を認め、褒める・・・
この循環の輪が笑顔と愛を生むと考えます。
耐える、頑張ることで終了せずに循環の輪を持てる人が多くなれば、
愛も大きくなるのではないでしょうか。

時間が過ぎ、ふと振り返った時に切り替わっている自分を見つけ、
頑張ったことを褒めてあげたいものです。

我が家は毎年、年替わりは節分です。
一年の計は春にあり。
二月の呼び方に”恵風”というものがあります。
愛ある風が春のお花を咲かせるように、
他者にも自分自身にも”恵風”を吹かせ、
愛ある循環の輪で満ち溢れる一年になるよう歩みます。

 

 

書き記されし書物は

 

Liber scriptus proferetur,
In quo totum continetur,
Unde mundus judicetur.
Judex ergo cum sedebit,
Quidquid latet apparebit,
Nil inultum remanebit.

 

Messa da Requiem ~ Liber scriptus ~
Giuseppe Fortunino Francesco Verdi
 

 

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1月:新年

 

 

 

 

明けましておめでとうございます。

素晴らしい陽射しの中に見事なナンテンの実がありました。
花言葉は「私の愛は増すばかり」「機知に富む」「良い家庭」とのことです。

愛とは一つではなく、
いくつもが重なり合い、
織り合い、
育んでいくものとあらためて見せられました。

今年一年、たわわに実る愛を育てていきたいです。
皆さまにとりましても幸多き一年でありますように。

 

 

クロリスに

 

S’il est vrai, Chloris, que tu m’aimes,
Mais j’entends, que tu m’aimes bien,
Je ne crois pas que les rois mêmes
Aient un bonheur pareil au mien.

Que la mort serait importune
A venir changer ma fortune
Pour la félicité des cieux!

Tout ce qu’on dit de l’ambroisie
Ne touche point ma fantaisie
Au prix des grâces de tes yeux.

 

À Chloris
Reynaldo Hahn / Théophile de Viau

 

 

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12月:モミの木

 

 

 

 

クリスマスの月となりました。
我が家のお庭にある”モミの木”にクリスマスの飾りをしました。
まだ2年目の小さな小さなモミの木。膝をついて飾り付けです。
今年のクリスマスは一つの思い出が頭を巡ります。

華やかなモミの木、
きらびやかなモミの木、
まばゆいばかりのモミの木、
様々なクリスマスのモミの木を見て来ましたが、私の心に深くある”モミの木”・・・。

1999年から2000年になる年の12月中旬から1月中旬まで、私はイスラエルのキブツにある素晴らしいホテルに滞在しました。
高台にあるホテルでしたので、目の下にはイスラエルの街々が広がっていました。
煌びやかさや華やかさはありませんが、何とも言えない静けさと暖かさを非常に感じました。これは今でもあの時にしか感じたことがない感覚です。

1ヶ月という時間は旅行というよりも生活を近く感じました。
目にする景色、触れ合う心、口にする食事・・・
一瞬一瞬が心に響く時でした。
冬空も街並みも石色、ベージュ色・・・
イスラム教の祈りの時間にはあちこちから煙が上がり、香りが漂い、民族的な音が鳴り始めます。
そして夕方4時になると街中に一曲の音楽が流れます。
毎日流れる曲・・・なんと「赤とんぼ」が流れるではありませんか!
この曲には驚きしかありませんでした。
イスラエルの方と話しましたら、歌詞があることも日本の曲とも知らないようで、彼らも驚いていました。
あるコンサートの後、私が皆の前で歌うと、深いため息が拍手がわりでした。

1ヶ月の間、一人の時間を満喫することが出来た素晴らしい時間は、私の心をいろいろな意味で充実と成長をさせてくれました。
滞在のホテルのロビーに大きな大きなクリスマスツリーがありました。
飾り付けに派手さなどは無く、非常に厳かでありました。

今のイスラエルは悲しみの中にあります。
あの素晴らしいキブツの街、人々・・・。
考えるだけで心苦しくなります。
我が家の”モミの木”が見上げるようになる頃、私たちはどのような生活をしているのでしょうか・・・。
世界、日本、人々の心が平和でありますように。
メリークリスマス。

 

 

赤とんぼ

作詞:三木 露風
作曲:山田 耕筰

 

夕焼け小焼けの 赤とんぼ
負われて 見たのは
いつの日か

山の畑の 桑の実を
小かごに摘んだは
まぼろしか

十五でねえやは 嫁に行き
お里の 便りも
絶え果てた

夕焼け小焼けの 赤とんぼ
とまっているよ
竿の先

 

 

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